Chapter 7
プリューシュにつめる想いは
晶: なんだかフィガロらしいですね。いつも着ている白衣みたいです。
フィガロ: 大正解。やっぱり賢者様は、俺のことをわかってくれてるね。
フィガロ: まさに、白衣の色だから選んだんだ。
フィガロ: この布で作った子を、白衣の胸ポケットに入れておけば、俺とお揃いみたいで可愛いだろ?
ホワイト: えっ、フィガロちゃん!おそかわの魅力に気づいたの!?
フィガロ: ちょっと違います。その方が、診療所にやってくる子供たちにはウケがいいかなって。
ホワイト: なーんだ。ねえねえ、それって今回の趣旨とずれてない?
ホワイト: ちゃんと『自分好み』で選んだ?
フィガロ: もちろん。俺は、患者さんを笑顔にする魔法使い。フィガロ・ガルシアが好きなんで。
フィガロ: まさしく、俺好みでしょ?
ラスティカ: さすがは僕たちの名医、フィガロ先生です。
晶: (……ということは、これでリケ以外は全員決まったみたいだな)
晶: (リケも、そろそろ選べたかな……?)
本人に気づかれないように、そっとリケの様子を窺ってみる。
リケはすでに、一枚の生地を手に取っていた。
その生地を胸に抱きしめたまま、目を閉じている。
手にした生地の色は、淡い黄色の、クリームみたいな色。
焼きたてのオムレツのような。それでいて、陽の光に照らされた、リケの髪の色のようにも見える色。
私の目には、そう見えた。リケには、どう見えているんだろう。
やがて、ゆっくりと目を開けたリケと、私の目が合った。
リケ: 僕、これにします。
晶: (どうして……)
理由を尋ねそうになって、ハッと口を閉じた。
布を抱きしめていたリケの、柔らかな表情。
目を開けて私を見た、透き通って輝く、まっすぐな瞳。
今のリケを包む空気の中に、すべての答えがある気がしたから。
私は再び口を開いた。今のリケに、伝えたい言葉があったから。
晶: すごく、素敵な色だと思います!
マーティン: 次は、お腹に詰める綿とぬいぐるみの目にするボタンを選んでいくよ!
全員が生地選びを終えたら、マーティンが次の工程の説明をしてくれた。
綿の量も、ボタンの種類も自由に選んでいいと言われたので、ここでもみんなの個性が発揮される。
クロエ: 俺は、このハート型のボタンをつけよう!
ミスラ: ドクロ型のボタンがいいに決まってます。
晶: ミスラは、ドクロにとことんこだわってますね。
ミスラ: 当たり前です。これ以外に選択肢はないです。
カイン: ん?これ、ちゃんと縫い付けられるのか……?
一足先に、綿を詰める工程へと進んでいたカインの、困惑した声が聞こえる。
見ると、カインのくまのお腹には、はちきれんばかりの綿が詰め込まれていた。
晶: それは詰めすぎでは!?
リケ: お腹がぱんぱんですね……。
ホワイト: ほほほ。カインは加減を知らぬのう。
ラスティカ: なぜ、それほどまでに綿を?
カイン: こいつを立派に仕上げてやりたいって気合入れたら、こんな感じになってさ。
ファウスト: 立派というより、苦しそうに見えるな。腹が顔を圧迫している。
フィガロ: もう少しスリムにしたほうが、カインも作りやすいんじゃない?
クロエ: そうだね。あんまり詰めすぎると、縫い付けるのが大変になっちゃうから。
カイン: うーん。やっぱそうなのか。
カイン: 縫い付けられなかったら元も子もないし、少し減らすか。
晶: そうですね。立派さ加減は、きっとぬいぐるみの表情でも出せますよ。
カイン: 確かに! きりっとした目にすれば、かっこよく見えるかな。
くまのお腹に綿を詰め終わった人は、耳と尻尾もつけていく。ところどころ難しい工程もあったけれど――。
マーティンのフォローのおかげで、順調にぬいぐるみ作りは進んでいった。
そしてついに、最後の工程、『目をつける』に取り組むことになった。
マーティン: 目をつける瞬間が、一番どきどきするんだ!
マーティン: なんたって、その子が生まれて初めて、この世界を目にする特別な瞬間だからね!
晶: わあ。私たちが自分のぬいぐるみに、初めてをプレゼントできるんですね。
マーティン: うん、その通り!
マーティン: それじゃ始めてもらうけど、困ったらすぐに声をかけてね。いちばん緊張する作業だから。
マーティン: その緊張をくぐり抜けたら、ついに完成だよ!
カイン・リケ: おー!
ホワイト: マーティンや。そういえば、できあがったぬいぐるみは我らが持ち帰ってもいいのか?
ホワイト: 先ほどフィガロは、自分のポケットに入れておきたいと申しておったが。
ふと思い出したようにホワイトが尋ねると、マーティンはにっこりと笑った。
マーティン: もちろん。みんなそれぞれで可愛がってあげて!
マーティン: あ、でも、今日は突然、俺のお願いに付き合ってもらったからな。
マーティン: もし持ち帰るのが難しい人がいれば、俺のお店に寄贈してもらう形でも、大切に保管させてもらうよ。
マーティン: ぬいぐるみを作りに来たお客さんに、お手本として見せておくからさ!
リケ: ……!
リケ: お手本……。
リケが何かを思い出したように、ぱちぱちと目を瞬く。
少し落ち着かない様子で、作りかけのぬいぐるみへ視線を落とした。
カイン: そういうことなら、俺は持って帰ろうかな。アーサーに見せたいんだ。
ホワイト: 我も、スノウに見せるのが楽しみじゃ!二人でくまちゃんを可愛がりたいのう。
ホワイトやカインがすぐに持ち帰りを希望するなか、私は隣にいるリケの反応が気になった。
リケ: ……。
リケはじっと、何も言わずに、自分のぬいぐるみを見つめ続けている。
晶: リケ? ……どうかしましたか?
心配になって尋ねると、リケの肩がぴくりと震える。
でも顔をあげた彼は、特に変わった様子もなく、微笑んだ。
リケ: いえ、どうもしませんよ。あともうひと頑張りですね!
リケは笑顔を浮かべたまま、元気よく両手でこぶしを作ってみせた。
それからすぐに黙々と針を動かしていく。
晶: (少し様子がおかしい気がしたけど……気のせいだったのかな)
リケが作業に集中し始めたので、私もそれ以上は聞かずに、自分の作業を再開しようとした。
ファウスト・フィガロ: ……。
ミスラ: ちょっと。ぬいぐるみはまだできないんですか?
ミスラ: 俺、布もボタンも選んだんですけど。
ホワイト: おや、ミスラはまだ布を縫っていなかったのか。
マーティン: わ! ごめんね。俺、ぜんぜん気づいてなくて。
マーティン: さあ、じゃあ針と糸を持って、俺と一緒にやってみよう!まずは針に糸を通してみようか。
ミスラ: 俺が?
カイン: やってみようぜ、ミスラ。小さい穴に糸が通ったときは気持ちいいぞ。
ミスラ: 嫌です。あなたがやってくださいよ。
フィガロ: ……マーティン。そろそろ一度、休憩をとってもいいかもね。
フィガロ: そのほうがみんなも集中できるかも。
マーティン: 確かに! じゃあそうしようか。
フィガロ: 休憩なら、飲み物でも買ってこよう。ファウスト、手伝ってくれる?
ファウスト: ……ああ。
ファウスト・フィガロ: …………。
フィガロ: まったく、若い子たちには、いつも考えさせられるよ。
ファウスト: 同感だ。……いえ、同感です。
フィガロ: 敬語じゃなくてもいいのに。
ファウスト: 昔のことを考えながら、敬語ではなく、あなたと話すのは、非常に難しいです。やるべきですか?
フィガロ: やるべきなんてことはない。それこそ、くまだよ。リケのくまじゃなく、きみのくま。
ファウスト: …………?
フィガロ: まあいい。先に話して。