Chapter 5
プリューシュにつめる想いは
マーティン: これまで自分でぬいぐるみを作ることはあっても、誰かと一緒に作ったことはないんだ。
マーティン: だから、どんなふうに教えたら楽しいのか、俺ひとりじゃ想像しきれなくてさ。
マーティン: みんなに最初のお客さん役をやってもらえたら、きっとすごく面白いことがわかると思うんだ!
カイン: いいな。気さくなあんたに教えてもらえたら、楽しくぬいぐるみが作れそうだよ。
ホワイト: ならば我らは、『ぬいぐるみを作りにきたお客さん役』をやればいいのじゃな。
リケ: 僕にとっては初めての経験ですが、きちんと役目を果たしてみせます。
マーティン: リラックスして、いつも通りのみんなでいいからね。
マーティン: ほら、みんなって年齢も性格もバラバラでしょ?だから、いろんなお客さんの接客の練習になりそうなんだ。
ラスティカ: ああ、確かに。言われてみればそうですね。
クロエ: こんなに年齢の幅があるお客さんのグループは、俺たち以外にいないかも。
マーティン: でしょ、でしょ!
フィガロ: この無邪気というか、のんきというか、垣根のない朗らかさは、いかにも西だねえ。
ホワイト: まったくじゃ。
リケ: わかりました。それなら張り切ってお客さん役を務めますね!
マーティンとの穏やかなやりとりに、リケの顔にも笑顔が戻る。
ファウスト: マーティン。
ファウスト: 僕たちは、あくまで試験客として協力する。その点だけは、誤解のないようにしてくれ。
マーティン: もちろん!みんなを宣伝に使うつもりなんてないよ。
マーティン: 大人気のみんなにあやかって、この店が大繁盛しすぎても困っちゃうしね!
おどけてウィンクしてみせるマーティンを見て、険しかったファウストの眼差しも少しだけ緩んだ。
ファウスト: わかった。そういうことなら、これ以上は何も言わないよ。
会話が落ち着いたところで、バスケットの中を覗き込んでいたリケが、わくわくした様子で顔を上げた。
リケ: それで、ぬいぐるみ作りというのは、何から始めるんですか?
マーティン: まずは……これだよ!
壁際の棚に手を伸ばしたマーティンは、そこから大量の生地を取り出してテーブルの上にどさっと広げた。
クロエ: すごいすごい!素材も柄も、いろんな種類が揃ってるね!
ラスティカ: クロエの目から見ても、珍しいものはあるかい?
クロエ: 珍しいっていうか、面白い?この柄に、この素材の生地なんだ、みたいなのがあるよ!
ホワイト: おお、くまちゃんの柄もあるのう。くまを作るのに、くまの柄というのも可愛いかもしれんぞ。
晶: ストライプやチェック、花柄も……。種類がたくさんありますね!
カイン: 星柄も星の大きさが違うな。
フィガロ: 淡い水玉柄というのも、いいね。無難だし使いやすそうだ。
ファウスト: 植物の葉を模した柄も悪くないな。この葉の形は、もしやあの薬草の……。
ミスラ: この生地、ドクロの柄ですか?良い趣味してますね。
いつの間にかミスラもテーブルの前にやって来て、並んだ生地を物珍しそうに眺めている。
ミスラ: あのでかいぬいぐるみと同じやつはないんですか?
マーティン: あるよ!えっとね……あっ、これこれ!
ミスラ: へえ……。
ホワイト: ミスラはそれが気に入ったのか?
ミスラ: まあ。少しは眠れるような気がしたんですよね。
カイン: いいじゃないか、安眠用のぬいぐるみ。一緒に作ってみようぜ。
みんなの様子を見守っていたマーティンは、さらに生地が良く見えるようにテーブルの上に一枚一枚広げてみせた。
マーティン: この生地の中から、どれでも好きなのを選んでね。
マーティン: 好きなのを、好きなだけ使ってくれてかまわないから。
リケ: 選択肢が多くて、迷います……。どういうふうに決めればいいんでしょう。
目を輝かせながらも悩んでいたリケは、名案を思い付いた様子で、パンと両手を叩いた。
リケ: そうだ!ミチルにあげるぬいぐるみにしよう。
リケ: 親友のミチルが喜びそうなものなら、僕、選ぶ自信があります。
晶: いいですね。ミチルも喜ぶと思う――。
マーティン: ああ、待って待って!
リケの案に私が相槌を打とうとしたところへ、マーティンが柔らかく口を挟んだ。
マーティン: リケは優しいね。でも今日は、『誰かのためのプレゼントは禁止』でお願いしたいんだ。いいかな?
リケ: えっ……。どうしてですか?
マーティン: だって、手作りのいいところは、『とことん自分好み』にできることだろう?
マーティン: きみの好きをギュッと詰め込んだ、『きみ自身のためのぬいぐるみ』を作ってほしいんだ。
リケ: 僕の好き……。
マーティンの言葉を噛みしめながらも、リケはすぐに頷いてみせた。
リケ: わかりました。それがあなたの望みなら、僕はお手伝いします。
マーティン: ありがとう! 他のみんなもお願いね!
カイン: ああ、やってみるよ。
クロエ: そういうのは得意だよ。任せて!
ラスティカ: 僕も、どんなぬいぐるみとの出会いが待っているのか楽しみだ。
ホワイト: 我の好みをあますことなく、ぎゅーっと詰め込んでみせるぞ!
カインとホワイト、クロエとラスティカはすぐに前向きな返事をするけれど、違う反応を見せる人たちもいた。
ミスラ: はあ……。寝られればなんでもいいです。
もともと、興味のなさそうな人。
フィガロ: 自分のための、か……。改めて考えると、難しいね。
首を傾げながら、布を手に取ってみる人。
ファウスト: 好みと言われても、あまりピンとこないな。
顎に手を添えながら、布を眺めている人。
晶: (私は……どうしようかな)
みんなが次々と生地に手を伸ばしていく中、私もいくつか手に取ってみる。
サクリフィキウム: ……。
晶: あれ? サクちゃんも気になるの?
サクちゃんはテーブルにぴょんと乗って、重なり合った生地のそばを、行ったり来たりしている。
ラスティカ: 賢者様の生地選びを手伝ってくれているのかもしれませんね。
クロエ: ふふ、そうかもね。
そんなことを話している横で、ホワイトとカインは早くもお気に入りを見つけたようだ。
ホワイト: この生地、ふわふわもこもこ〜。ずっと触ってたい!
カイン: おお、革の生地もあるんだな。かっこいい。
カイン: けど、これで作るぬいぐるみって……。どんな感じになるんだ?
マーティン: それなら、これを見て!
すぐ近くの棚から、マーティンはいくつかのぬいぐるみを取ってきた。
そのうちの2体を手に取って、カインとホワイトの前に置く。
マーティン: カインが持っている革の生地で作るなら、この子みたいな感じになるよ。
マーティン: ホワイトが選んだふわもこの生地なら、この子みたいなイメージかな。
カイン: なるほど!触ってみてもいいか?
マーティン: うん、ぜひ!抱っこしてあげて。
カイン: おっ。意外とずっしりしてる感じだな。
顔の高さまでぬいぐるみを持ち上げたカインは、二色の瞳を細めた。
カイン: こいつの顔、なんか愛嬌があるよな。見てるとつい笑顔になっちまうよ。
カイン: よし! 俺もこいつみたいなぬいぐるみを作ってみるか。
ホワイト: こっちのふわもこ生地のぬいぐるみも、触り心地がよいのう。
ホワイト: 我も、この子みたいな子を作っちゃおっと!
マーティン: 参考になったみたいで、よかった!他のみんなも、生地は決まった?
マーティンが声をかけると、クロエとラスティカが同時に生地を持ち上げた。
クロエ: 俺は、これにするよ!
ラスティカ: 僕は、これにするよ。
二人が手に取ったのは、クロエが深い藍色の生地。ラスティカのは濃い紫色の生地だった。
晶: ……もしかして、お互いの瞳の色の生地にしました?
クロエ: 当たり!
ラスティカ: よくわかりましたね。さすがは僕たちの賢者様。
晶: 二人の顔を見たら、そうかなって。いいですね! 素敵だと思います。
晶: (他のみんなは決まったかな。リケは……どうだろう)
静かに生地を選んでいるリケが気になって、横を見ると、彼は真剣な顔つきで悩んでいた。
リケ: ……。
一枚一枚手に取って、手触りを確かめたり。
生地を広げて眺めては、何度も首を傾げたり。
晶: (リケ、すぐには決められないみたいだな)
晶: (普段なら、つい自分のお勧めとか口にしちゃうところだけど……)
さっき、マーティンが口にした言葉を思い出す。
きみの好きをギュッと詰め込んだ、『きみ自身のためのぬいぐるみ』を作ってほしいんだ。
晶: (私だって、リケにはリケの『好き』を詰め込んだ、世界にひとつだけのくまちゃんを作ってほしい)
晶: (だから、リケが納得するまではちゃんと待っていようっと)