Chapter 4
プリューシュにつめる想いは
フィガロ: きみ、『新しい試みに悩み中。しばらくそっとしておいてください』って書いてた割には、元気そうだね?
マーティン: あっ、そっか!俺、悩んでたんだった!
リケ: えっ。忘れていたんですか?
マーティン: あはは。憧れのみんなと会えて悩みが吹っ飛んじゃったみたい!
クロエ: 本当? それならよかった。
ホワイト: マーティンと言ったか。そなたの新しい試みというのはもしや……。
ホワイト: 賢者の魔法使いにちなんだ、おにゅーなぬいぐるみを作っちゃうわけ?
マーティン: えっ。俺のぬいぐるみのことまで知ってくれてるの?
フィガロ: もちろん。《ポッシデオ》
フィガロ: ほら、このぬいぐるみはきみが作ったんだって?
フィガロが呪文を唱えると、カバンからファウストたちのぬいぐるみが飛び出してくる。
マーティン: すごい! まさかご本人たちの手元にまで届いちゃうなんて!
カイン: といっても、俺たちが持っているのはこの3人だけなんだ。
ミスラ: だから、さっさと俺のぬいぐるみと、オズのぬいぐるみを見せてください。
ミスラ: あなたが作ったなら、あなたが持っているんでしょう?
マーティン: ううん。作ったぬいぐるみは全部、お迎えしてくれる人に譲っちゃった。だから、ここにはないんだよ。
マーティン: 最近はもう、みんなのぬいぐるみを作るのもやめちゃったしね。
クロエ: え、そうなの?
マーティン: うん。初めてくまのぬいぐるみ以外を作ってみるのは新鮮だったし、楽しかったけどね!
そこで一度言葉を切ったマーティンは、自分の店を見上げた。
彼の栗色の瞳に、たくさんのぬいぐるみたちが映る。
マーティン: ……俺にとってはやっぱり、『くまのぬいぐるみ』が特別だから。
マーティン: これからはもう一度、そこに集中していきたいなって。
ホワイト: ふむ……。寄り道したうえで再び、原点に返る。
ホワイト: そのような感じかのう。
マーティン: そうそう!まさにそういう感じだよ!
ミスラ: はあ? それじゃあ、ここに俺のぬいぐるみはないんですか。
マーティン: ごめんね。でも、西の国では賢者様たちは大人気だから!
マーティン: きっと近いうちに、俺以外の職人も似たようなぬいぐるみを作ったりするんじゃないかな?
クロエ: えーっ、そうなのかな?嬉しいけど、ドキドキしちゃう!
ラスティカ: いつの日か、小さな僕たちがお店の棚に並ぶのかもしれないね。
フィガロ: それは面白い光景だな。
ファウスト: 僕には信じ難い光景だ……。
あれこれ話して盛り上がっていると、リケがそっと、マーティンの方へと一歩近づいた。
リケ: マーティン。それならあなたは一体、どんなことで悩んでいたのですか?
マーティン: それは……。
マーティン: 実はもう、解決できちゃうかも!みんなが協力してくれるなら!
晶: ん? どういうことですか?
マーティン: みんなの顔を見ていたら、ヒントがひらめいたんだよ。
マーティン: ねえ、賢者の魔法使いさん。俺のこと、助けてくれる?
助けを求めるマーティンの瞳は、とても澄んでいた。
リケ: はい、もちろん。
マーティンの眼差しを受けて、リケがすぐさま、こくりと頷く。
そこには、何の迷いもない。
リケ: 僕は神の使徒ですから。
ファウスト: ……待て、リケ。まずは内容を聞いてからだ。
素早く声を上げたファウストが、さりげなくリケとマーティンの間に割って入る。
ファウストの声音には案じる響きが混じっていた。リケは意図を掴めずに、きょとんとした顔でファウストを見上げる。
リケ: ですが、助けを求められているのなら……。僕には『助けない』という選択肢はありません。
ファウスト: …………。
ファウストが言葉を探す。彼の紫の瞳は、なぜか意見を求めるように意外な人物へと向いた。
フィガロ: …………。
ほんの一秒にも満たない間で、フィガロはさりげなく、リケの方へと近づいていく。
フィガロ: リケ。助けたい気持ちと、何でも引き受けることは別だよ。
フィガロ: もし引き受けた後で、きみにはできないお願いだったら?
リケ: ……っ、確かに。
リケ: 僕にできることかどうかは、まだわかりませんね。
ファウスト: ああ。確かめてからでも、遅くはない。
フィガロ: ごめんね、マーティン。きみを疑っているわけじゃないんだけど。
マーティン: ううん、気にしないで!突然お願いしているのはこっちだしね。
フィガロ: ありがとう。
リケ: フィガロ、ファウスト。
フィガロ: ん?
リケ: もしかして僕が……。あとで無理をしないよう、気遣ってくれたのですか。
リケ: 二人とも、優しいんですね。あなたたちの心遣いに感謝します。
ファウスト・フィガロ: ……。
ファウスト: 別に僕は……。
フィガロ: あはは。やっぱりきみは、どこまでもピュアで真っ直ぐだね。俺には眩しいよ。
頬をかくファウスト。肩を揺らして笑うフィガロ。二人に向けて微笑んでいるリケ。
3人は、違う国の魔法使いだ。
関わりがないわけでは決してないけれど、年齢も違う。普段の交友関係も違う。
そんな三人が、お互いを想いながら、声をかけてくれたことが、私は素直に嬉しかった。
私の大切な友人が、私の大切な友人を、大切にしてくれている。
晶: (それってすごく……、ありがたいよな。当たり前のことじゃない)
晶: ありがとうございます。ファウスト、フィガロ、リケ。
フィガロ: ん……?
リケ: どうしました、賢者様?
ファウスト: 何への礼だ?
晶: あ、いえ!ちょっと、伝えたくなっちゃって。
ミスラ: あなたたち、なんか色々話してますけど。
ミスラ: あの人間なら、店の中に入っていきましたよ?
カイン: あれっ、本当だ。
クロエ: さっきまでそこにいたのにね。
ホワイト: もう〜。これだから西の人ってマイペースなのよね〜。
ラスティカ: 光栄です。
リケ: 僕たちもお店の中に入って、探しにいきましょう。
マーティン: おーい、こっちこっち!俺はここにいるよ!
いざみんなで捜索を始めようとした矢先、開いたままの扉の向こうから、明るい声が聞こえてくる。
店の奥から、大きなバスケットを両手に抱えたマーティンが笑顔を浮かべてこちらに走ってきた。
彼の手にしたバスケットの中には、大量の綿のようなものや、針や糸などが詰め込まれているのが見えた。
マーティン: みんな、お待たせ!改めて、俺からのお願いなんだけど……。
マーティン: 今から俺と一緒に、世界にひとつだけの、くまのぬいぐるみを作ろうよ!
ファウスト・リケ・フィガロ: え?
マーティンに案内されて、私たちは店内へと入った。
晶: (わあ……! お店の中まで本当に可愛いな)
棚の上や柱のそばに至るまで、とびきり可愛いくまちゃんたちが飾られている。
それによく見ると、床や壁の模様はくまの肉球になっているこだわりようだ。
お店の内装に見惚れながら、店の奥にある、作業場のようなスペースへと進んでいく。
そこはぬいぐるみを作る作業場のようなスペースで、木の長机が中央に置かれていた。
その前に私たちは順に座っていくが、ミスラだけは……。
お店の中に置かれた、巨大なくまのぬいぐるみに体をうずめていた。
ミスラ: これ……悪くないですね……。
ミスラ: 俺のぬいぐるみも、これくらいの大きさで作らせよう……。
カイン: なあ、ミスラをこっちに呼ばなくていいのか?
ホワイト: ミスラはあのままにしておいた方が平和じゃろう。
ホワイト: 飽きたらまたこっちに来るはずじゃよ。
晶: あれ? もしかしてあの大きなくまちゃんも売り物なんじゃ?
晶: あんなふうに寝そべって、止めなくていいんでしょうか。
マーティン: 気にしなくていいよ!
マーティン: あの子は、もともとああやって可愛がってもらえるように、あの場所に置いてるんだ。
マーティン: だからあの子も喜んでると思う!うちに買い物に来るお客さんたちにも大人気だしね。
マーティンは、にこにこと笑いながら、自分の目の前に勢揃いした魔法使いたちをぐるりと見回す。
マーティン: 改めて皆さん、俺の新しい試みにご協力くださり、ありがとうございます!
マーティン: 準備はいいですか?
カイン・ホワイト・クロエ: おー!
ラスティカ・リケ・晶: 楽しみです!
ファウスト・フィガロ: よろしく。
マーティンが悩んでいた『新しい試み』とは、商品のことではなく、彼の考えた『新サービス』のことだった。
彼の店を訪れるお客さんの中には、ぬいぐるみ作りに興味を示す人もいるのだという。
その声に応えて、ぬいぐるみ作りを教えるサービスを始めてみるべきか――。それが、彼の悩みだったのだ。