Chapter 3

プリューシュにつめる想いは


ファウスト: 人形づくりが専門の職人かと思っていたよ。

ラスティカ: 僕たちも、その話を聞いたときは驚きました。

クロエ: でも、西のサロンでいろんなひとに聞いたから間違いなさそう。

クロエ: くまのぬいぐるみ職人として、すっごく有名な人なんだって。

ラスティカ: だからこそ、その職人が手掛けた『賢者の魔法使いのぬいぐるみ』シリーズが話題になったようですよ。

: なるほど。元々腕のいい職人さんには違いなかったんですね。

フィガロ: つまり、その職人に敬意を表して、今回の衣装はくまモチーフってことなのかな?

クロエ: うん!親近感を持ってもらえるかなと思って!

クロエ: だって、ぬいぐるみのモデルの俺たちが突然会いに行ったら、驚かせちゃうかもしれないでしょ?

フィガロ: なるほどね。見た目から友好的な姿勢をアピールするんだ。

ホワイト: 相手の懐に入る作戦というわけじゃな。賢いのう。

ファウスト: 作戦としては、悪くないな。

ファウスト: ……自分にくまが似合っているかは、別問題として。

そんなことを言いながらも、ファウストは腰に提げたくまの飾りの位置を丁寧に直したりしている。

: (気に入ってるのかな?くまを触る手つきが優しい……)

: (そういえば、ミスラも違和感なく着こなしてるな)

ちらりとミスラの方を窺うと、彼の長い足によく似合う白いズボンの近くで、白いくまちゃんが揺れていた。

ミスラは気だるげにあくびをすると、私たちの方へ向き直る。

ミスラ: もう行きますよ。俺はその職人のこととか、どうでもいいので。

ミスラ: 俺のぬいぐるみが、オズよりデカいか早く確かめたいんです。

: あっ。そういえば、ミスラの目的はそれでしたね。

リケ: では、そろそろ出発しましょうか。

リケ: ミスラ、空間の扉をお願いします!

リケがくま耳を揺らしながら、ぺこりとお辞儀をする。

: (やっぱり可愛い……)

ミスラ: 《アルシム》

リケ・晶: わあっ……!

空間の扉を通って、街外れから店の前に出た瞬間、うっとりとしたため息が漏れる。

: (見渡す限り、くま。くま。くまだ……!)

: か、可愛すぎる……。

ホワイト: すご〜い! テンションあがる〜!

リケ: 見てください! 左にいるあの子。頭にリボンをつけていますよ!

リケ: あっ。それに右の子は!大きいくまちゃんの頭に、別のくまちゃんが寝ています。

クロエ: 見てるだけで癒されるね〜。この子たち、触ってもいいのかな?

カイン: お。この看板には、『自由に抱っこして!』って書いてあるぞ。

カイン: ほら、リケ。抱っこしてみろよ。

リケ: いいんですか?

カイン: もちろん。ここにそう書いてある。

リケ: では……。えっと、この茶色の子を……。

リケ: ぎゅ〜〜〜っ!

: (癒しパワーがすごい……。ここはほっこり空間だ……)

ホワイト: そういうことなら、ほらほら〜。ファウストちゃんも抱っこしてあげよ〜。

ファウスト: ……!

ファウストが断れないスピード感で、ホワイトはぬいぐるみたちを押し付けた。

ファウスト: なんで僕が……。

: (……と言いながらも、ちゃんと落っこちないように抱きしめてあげてる。さすがだ)

ホワイト: ほらほら、フィガロちゃんも!

フィガロ: え? 俺もですか?

ホワイト: 仕方ないのう。我が手本を見せてやるか。

ホワイト: はい、ポーズ!

ホワイト: 次はフィガロちゃんがくまちゃんを抱っこして〜〜〜。

ホワイト: はい、ポーズ!

フィガロ: ポーズ。

ミスラ: あなた、何やってるんですか。

フィガロ: 何って、何が?華麗にリクエストに応えただけだよ。

: (あはは。なんだかみんなで一緒に、テーマパークにでも来たみたいだな)

: (まだ店の中に入っていないのに、もう楽しくなってきちゃった)

カイン: ん? おい、みんな。これを見てくれ。

そのとき、店の扉の前にいたカインが、声を上げる。

ドアにかけられた札を指差して、そこに書かれた文字を読み上げた。

カイン: 『新しい試みに悩み中。しばらくそっとしておいてください』だってさ。

ファウスト・リケ・フィガロ: え?

ホワイト: もしや、スランプというやつか?

クロエ: スランプか〜〜〜。そういうときって、あるよね……。

ラスティカ: クロエはそういうとき、僕のもとを訪ねてくれるよね。

クロエ: うん。俺の場合は、ひとりで煮詰まっちゃうことが多いからね。

リケ: 職人さんが困っているなら、僕も何か力になりたいです。

カイン: それは俺も賛成なんだが、ドアに鍵がかかっているみたいだ。

ファウスト: それなら、日を改めよう。そっとしておくのも相手への誠意だ。

フィガロ: そうだね。俺たちの用事は、急ぎってわけでもないし。

ミスラ: はあ? 何を言っているんですか。

ミスラ: そいつの事情なんて知りませんよ。店の中に気配がありますし、さっさとこうすればいいでしょう。

ミスラ: 《アル――》

: ストップストップ!不法侵入はダメですよ!?

ミスラ: ふほーしんにゅう?

ミスラ: よくわかりませんが、俺にはどうでもいいことです。

ミスラ: 俺は今すぐぬいぐるみが見たいんで、勝手に入り――。

ミスラの言葉を、ドアベルの音が遮った。

閉じられていたはずの扉の向こうから、ひとりの青年が現れる。

くるくるとした栗色の巻き毛で、ひょろりとした細身にはちみつ色のエプロンを付けている。

青年: あの、声が聞こえたんですけど。もしかして団体のお客さん――。

青年: って、えっ!!??

あどけなさも感じる二重の大きな瞳がさらに丸くなり、その視界いっぱいに私たちが映る。

青年: うわー! あ、あの北のミスラだよね?!その燃えるような赤髪に、見惚れる長い足!全身からあふれでる、気だるげな雰囲気!

ミスラ: はい。そうですけど。

青年: えっ、本当の本当に!?ここ西の国だよ!?

青年: あっ、でも本物のミスラは、魔道具の骸骨があれば、空間移動の魔法が使えるんだっけ……!

ミスラ: は? 別に空間移動くらい、これがなくてもできますけど。

軽く首を振ったミスラは、いつの間にか魔道具の骸骨を手にしていた。

青年: うわー!!!本物だ!!!

青年: これが北のミスラの骸骨……。きらきらだ……きれい……。

ミスラ: へえ、あなた見る目がありますね。もっと近くで見てもいいですよ。

ファウスト・フィガロ・晶: …………。

ホワイト: ふむ……。

ホワイト: まず、どこからツッコむべきかの?

: さっきまで不法侵入の危機でしたが、今はとっても……。

リケ: 平和な光景ですね?

カイン: 何がどうなってるんだ?

ラスティカ: きっと彼こそが、このお店を営んでいる職人さんだね。

クロエ: と、とりあえず、俺たちも話しかけてみよう!

青年: ……!

ついさっきまでミスラに夢中だった青年は、私たちに気がつくと、目を見開き、口をぱくぱくと動かした。

青年: えっ、ええっ!あなたは……リケ!?

青年: クロエにラスティカ、カインやホワイトもいる!

青年: 後ろにいるのはファウストとフィガロ?それに、もしやあなたは賢者様!?

: そうです。賢者の晶といいます。突然おじゃまして、ごめんなさい。

青年: そんな、謝らなくていいよ!それよりも握手してほしいな!

: あっ、はい! 喜んで。

私が右手を差し出すと、青年は力強くぎゅっと握りしめた。

青年: あの賢者様と握手できるなんて!はあ、幸せだなあ……。

マーティン: あっ! 俺、マーティンって言います。この店兼工房で、くまのぬいぐるみを作ってるんだ。よろしく、賢者様!

: よろしくお願いします。

マーティン: リケも、握手してくれる?

リケ: はい。お目にかかれて、嬉しいです。

マーティン: こちらこそ嬉しいよ!今日は最高の日だな!

カイン: はは、元気いっぱいだな。マーティン、俺とも握手してくれるか。

マーティン: もちろんだよ!よろしく、カイン!

カインとの握手を終えたマーティンは、いまだ夢見心地な瞳で、私たちの顔を見回した。

マーティン: ……うわああ。あの『賢者の魔法使い』たちと握手できるなんて、夢みたいだ……!

: (なんだか、めちゃくちゃテンションの高いルキーノみたいだな……?)

: (まだ会ったばかりだけど、みんなのファンみたいだし、仲良くなれそう)

その後もマーティンはハイテンションのまま、全員と握手して回る。

ひとしきり彼の感動が収まったところで、フィガロが首を傾げた。

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