Chapter 2
プリューシュにつめる想いは
リケ: では、ぬいぐるみのファウストとムルも、本人より高い声で喋るんでしょうか。
晶: それは想像すると面白いですね。ちょっと聞いてみたいです。
ホワイト: ほほほ。我がやってやろうか?どれ……。
ホワイト: 『ムルだよー! にゃーん!』
カイン: 『ファウストだ。にゃーん!』
フィガロ: あはは。ムルはともかく、斬新なファウストが登場したね。
テーブルの上で、みんなが自由にぬいぐるみを動かしていく。
小さな手を動かしてみたり。ちょこちょこと歩かせてみたり。
晶: (懐かしいなあ。子供のとき、ぬいぐるみを並べて遊んでいたっけ)
いつのまにか、やらなくなって。いつのまにか、心の奥にしまっていた。――そんな、ささやかな思い出。
だけど、心の奥をのぞけば、何年経っても思い出せる。
あの頃、そばにいてくれた、私だけの友だち。
過ぎ去った日々の思い出に、じんわりと胸が温かくなりながら、紅茶を一口飲む。
すると突然、聞き馴染みのある声が聞こえた。
???: 《アルシム》
晶: !
現れた空間の扉から姿を見せたのは、ミスラとファウストだった。
晶: ミスラ、ファウスト。こんにち――。
晶: って。それ、どうしたんですか!?
目の前のファウストは、なぜか巨大な骨を両手で抱えていた。彼の身長の2倍はあるほどの大きさだ。
ファウスト: 驚かせてすまないな。これは、『ガルグラム』という獣の骨だ。
フィガロ: ガルグラム?それは珍しい代物を手に入れたね。
カイン: それ、何かに使うのか?
ミスラ: 呪術に使うんですよ。
ミスラ: 『ガルグラム』は北の国にしか生息しないんです。その北の国でも、めったにお目にかかれません。
ミスラ: でもちょっと前に、骨がいくつか散らばっている箇所を見つけて……。見てください、これすごいでしょう?
ミスラ: こんなに大きくて、手触りのいい骨なんて三百年は見てないですよ。
ホワイト: ほほほ。めずらしく饒舌でご機嫌じゃのう。
ホワイト: それで、そのご機嫌なミスラに、ファウストが付き合わされたというわけか?
ファウスト: 『いい骨が手に入るから来い』と、突然、僕の部屋に来た。断る間もなくな。
ホワイト: ごめんね、ファウストちゃん。うちのミスラちゃんってば、いっつも急だから。
ミスラ: は? あなたに言われたくないです。
ミスラ: いつも急にお茶会だとか言って、俺たち北の魔法使いを集めるでしょう。
ホワイト: いつもじゃないもん!今日は中央と南の子たちを誘ったもんね!
ミスラ: 南?南、ねえ……。
フィガロ: うん、どっからどう見ても南だよ。
大きな骨を地面に置いたファウストは、軽く服を払ってから、ホワイトへ向き直った。
ファウスト: 確かに驚いたし、迷惑ではあったが、ひとりでは行けない場所だった。学びがあったことは否定しないよ。
ホワイト: おお、たくましいのう。
晶: あの、ファウスト、ミスラ。よければ二人も一緒にこっちに座りませんか?
リケ: いま、ファウストたちのぬいぐるみと一緒に、お茶会をしていたところなんですよ。
ファウスト: ん? 僕たちのぬいぐるみ……?
テーブルの上に視線を向けたファウストは、少しだけ目を丸くした。
ファウスト: そのぬいぐるみは……。
ファウスト: この前の『魔法舎お疲れ様パーティ』で、フィガロが手に入れたものじゃなかったか。
リケ: 僕がフィガロから借りたんです。この子たちと一緒にお茶会をしたかったので。
カイン: そういうわけで、こいつらも茶会の客なんだ。
カインが得意げに自分のぬいぐるみを持ち上げてみせると、ファウストは困惑した表情になった。
ファウスト: 自分自身のぬいぐるみとお茶を囲むというのは、少々……。気恥ずかしくないか?
カイン: 全然!さっき、リケが俺のぬいぐるみに話しかけてくれて、嬉しかったぞ。
カイン: あと、あんたのぬいぐるみはどんな声で喋るかなって話してた。
カイン: 『ファウストだ。にゃーん!』ってな。
ファウスト: は? にゃーん……?
フィガロ: ファウストも、一度くらいは自分のぬいぐるみを抱っこしてあげたら?
フィガロ: ほら。
ファウスト: っ……。
ファウストが返事をする前に、フィガロは彼の手にぬいぐるみをむぎゅっと押し付ける。
フィガロ: うん。そっくりだね。
ファウスト: そうか……?僕はこんなに愛らしい瞳をしていないけどな。
ファウストは困惑しながらも、包み込むような手つきで、自分のぬいぐるみを持ち直す。
晶: (困り顔のファウストが、困り顔のファウストのぬいぐるみを抱っこしてる……)
リケ: ふふ。
笑い声に目を向けると、リケも楽しそうに肩を揺らしていた。
リケ: もしかして、遠い西の国でも、こんなふうにお茶会をしている人々がいるのでしょうか。
リケ: 僕たちのぬいぐるみと一緒に。
晶: そうかもしれませんね。賢者の魔法使いのぬいぐるみは西のご婦人たちに大人気だそうですし。
リケ: それってとても……不思議な心地がします。
リケが、ふと空を見上げる。
遠く、彼方の空を。まるで、西の国の景色が見えているように。
晶: (私のぬいぐるみも今頃……。どこかの誰かに、大切にしてもらえてるのかな)
想像してみるほどに、なんだか嬉しいようなくすぐったいような気持ちだ。
フィガロ: そういえば、どうして俺たちのぬいぐるみが市場に出回っているのかは気になるところだよね。
ホワイト: 『歩く地獄』の討伐がきっかけで、我ら賢者の魔法使いは、西の国でも大人気だからじゃろう?
ホワイト: 人気に火がついて、ぬいぐるみがたくさん作られるようになったのかもしれぬ。
ミスラ: ところで、どうして俺のぬいぐるみはここにないんですか?
ミスラ: ちゃんとオズよりデカくて、かっこいいやつでしょうね。
晶: ミスラ的には、サイズ感が気になるんですね。
ミスラ: 当然でしょう。一番デカくないと、納得できませんよ。
ファウスト: 背の丈に合わせるなら、レノックスが一番大きいんじゃないか?
フィガロ: 魔力に合わせるならオズだし。
ミスラ: うるさいです。
リケ: 僕も、自分のぬいぐるみがあるなら、見てみたいです。
リケ: どこに行けば、見ることができるんでしょうか?
カイン: それはやっぱり、西の国じゃないか?そこからどう探すかは、見当がつかないが。
ファウスト: 作った本人を訪ねるとか?この丁寧な縫製は、おそらく職人の仕事だろう。
みんなでわいわいと話し合っていると、急に頭上に影が差した。
とっさに空を見上げると、二人の魔法使いがこちらに手を振っている。
クロエ: ビッグニュース!
ラスティカ: それに、グッドタイミングかな?
クロエ: ……! そうかも!
地面に降りた二人は、何かに気づいた様子で顔を見合わせて笑い合う。
二人の視線は、テーブルの上のぬいぐるみたちに向けられていた。
クロエ: あのね。そのぬいぐるみを作った人が、誰かわかったよ!
カイン・リケ・晶: ええっ!?
数日後。
あのお茶会の日に居合わせたメンバーが、再び中庭で顔を合わせていた。
今日は全員、クロエが作ってくれたお揃いの衣装に身を包んでいる。
晶: 今回の衣装も、とっても素敵ですね!というか可愛すぎます……!!
ホワイト: 見てみて、ファウストちゃんのポケット!くまちゃんがお昼寝してる〜!
ファウスト: ああ。寝息が聞こえてきそうなくらいに可愛いな。
フィガロ: 俺の胸ポケットも見て。くまちゃんがこんにちはしてるよ。
リケ: 僕の白いくまちゃんも見てください!
リケ: こんなに可愛いのに、ハンカチやお財布まで入れられるんですよ!
カイン: サクリフィキウムの襟元も見てみろよ。くまの形のワッペンをつけてるぞ。
サクリフィキウム: ……!
晶: そうなんです!サクちゃんの分までありがとうございます、クロエ!
クロエ: ぜんぜんだよ〜!みんなに喜んでもらえて嬉しい!
ラスティカ: どの子も、クロエが丹精込めてつくったものだから、愛らしさが溢れていますよね。
ミスラ: けど、なんでこんなにくまだらけなんですか?
カイン: 確かに。リケなんか、本人がくまのぬいぐるみみたいだよな。
リケ: えっ?それはどういう意味ですか?
カイン: もちろん褒めてるんだ。可愛いって意味だよ!
晶: わかります!すごく可愛いですよ、リケ!
リケ: えへへ。それなら許します。
リケの被っている帽子は、くま耳のデザインだ。
彼が動くたびにその耳も小さく揺れて、見てるだけで癒される。
クロエ: あのね、くまをモチーフにしたのは、大事な理由があるんだよ!
クロエ: 俺たちはこれから、俺たちのぬいぐるみを作ってくれた職人の店へ行くでしょ?
ラスティカ: その職人の男性は、くまのぬいぐるみを専門に作っている方なんだそうですよ。
晶: えっ! そうだったんですか?