Chapter 1
プリューシュにつめる想いは
晶: 今日は風が気持ちいいな〜。
晶: お昼ご飯のあとの眠気覚ましにもちょうどいいね。サクちゃん。
サクリフィキウム: ……。
あたたかい陽気に誘われた私とサクちゃんは、のんびりと散歩を楽しんでいた。
すると、噴水のそばでテーブルを囲むリケとカイン、フィガロとホワイトの姿を見つける。
リケ: あっ! 賢者様!
カイン: おっ、晶がきたのか。ハイターッチ!
フィガロ: ちょうどよかった。お茶会の準備ができたところだよ。
ホワイト: あま〜いクッキーにチュロス、あつあつの紅茶もあるぞ。
晶: わあ、どれも美味しそうです!私も参加していいんですか?
ホワイト: もちろんじゃ。この茶会は、我の主催でのう。
ホワイト: 今日はスノウと別々で過ごす日故に、廊下ですれ違った子たちを誘ってみたのじゃよ。
リケ: 準備ができたら、賢者様のことも呼びに行こうとしていたんですよ。
リケ: ランチの後のデザートは、格別ですからね。あなたと一緒に楽しみたくて。
カイン: ほら、賢者様。どうぞこちらへ。
晶: ありがとうございます!
カインが騎士らしい洗練された仕草で、椅子を引いてくれる。
お言葉に甘えて椅子に座ると、テーブルの上には小さな先客がいた。
そこにいたのは、ムル・カイン・ファウストをそのまま小さくしたような、見覚えのあるぬいぐるみたちだ。
フィガロ: どう?可愛いお客さんたちだろ?
晶: フィガロ。この子たちって……!
フィガロ: うん。この前の『魔法舎お疲れ様パーティ』でもらった子たちさ。
その言葉に、みんなと楽しんだいつかのパーティの記憶が蘇る。
大盛り上がりのプレゼント交換タイムで、ムルの用意したぬいぐるみがフィガロの手に渡ったのだ。
フィガロ: このぬいぐるみたちは俺の部屋で保管して、希望者には貸し出しているんだ。
ホワイト: 今日の茶会にぬいぐるみたちを招待したのはリケの発案じゃよ。
リケ: 僕、この子たちをもっと近くで見てみたかったんです。
リケ: 自分の周りにいる人のぬいぐるみを間近で見られる機会なんて、なかなかないですから。
フィガロ: よかったら賢者様も、近くで見てあげて。
晶: えっ、いいんですか?
フィガロ: もちろん。抱っことかも大歓迎だよ。
晶: やった、嬉しいです!
そっと大切に、ぬいぐるみをひとりずつ、手にとってみる。
晶: (わあ……。本当にそっくりというか、とにかく可愛い……!)
にっこり笑顔のムルや、ウインクをしているカイン、ちょっと困り顔のファウスト。
今にも本人たちの声が聞こえてきそうで、つい頬がゆるむ。
ホワイト: ほほほ。賢者よ。なんとも嬉しそうな顔をしておるのう。
カイン: ああ。すごい可愛い顔してる。
フィガロ: あれ、賢者様。フィガロ先生にもその笑顔、もう少し向けてくれていいんだよ?
リケ: あなたの笑顔まで見られるなんて、やっぱりこの子たちを招待できてよかったです!
晶: えっ、そんなに顔に出てましたか!?あはは、恥ずかしいな……。
照れ笑いをしながら、手にとっていたぬいぐるみたちを元の場所に戻す。
ちょうど、全員のティーカップに紅茶を注ぎ終わったカインが、明るい声を出した。
カイン: さあ。人数も揃ったし、早速みんなで乾杯でも……。って、紅茶だと乾杯はやらないか。
リケ: あっ、待ってください。カイン。
リケ: 小さなお客様たちのために、これも並べないと。
リケは、椅子に置いていたカバンからミニチュアサイズの食器を取り出した。
親指ほどのお皿と、ティーカップが3つずつだ。
リケ: はい、どうぞ。ムル、ファウスト、カイン。
ぬいぐるみたちに話しかけながら、リケは小さな食器を置いていく。
そして小さなティーカップには、こぼさないように慎重な手つきで、紅茶を注ぎ入れた。
ホワイト: おお。忘れておった! そういえば、我とスノウが人形遊びに使う皿をリケに貸しておったのう。
カイン: そうか。こいつらも含めて、8人でのお茶会だもんな。
カイン: 俺たちのぬいぐるみも喜んでるよ。ありがとう、リケ!
リケ: えへへ。どういたしまして。
フィガロ: じゃあ、ファウストたちにお菓子を配るのは、俺が手伝おうかな。
フィガロ: 《ポッシデオ》
晶: っ! チュロスとクッキーが小さくなりました!
フィガロが軽く手を振ると、小さくなったお菓子たちが、小さなお皿の上へとふわふわ飛んでいく。
リケ: あれ?
リケ: フィガロ。カインとムルのお皿には、チュロスとクッキーがひとつずつなのに……。
リケ: ファウストのぬいぐるみのお皿はどちらもチュロスですよ。間違えてしまいましたか?
フィガロ: いや、合ってるよ。チュロスっていうと、双子先生のイメージが強いけど……。
フィガロ: 実はファウストも、美味しいシナモンチュロスが好きなんだ。
フィガロ: だから、俺からのサービスだね。
パチリとウインクして、フィガロは茶目っ気たっぷりに言う。
リケ: そうだったんですね。知りませんでした。
リケ: それならぬいぐるみのファウストも、きっと喜んでいますね。
嬉しそうなリケの視線に導かれて、私もファウストのぬいぐるみを見た。
晶: (ふふ。ぬいぐるみの顔が変わるはずないんだけど……。どことなく、嬉しそうな感じがするかも)
カイン: じゃあ改めて、これで全員分揃ったな。
カイン: 茶会を始めよう!いえーい!
3人・晶: いえーい!
リケ: いただきます!
晶: どれも美味しそうですね。何から食べようかな。
ホワイト: 断然、チュロスがおすすめじゃ!外はサクサク、中はふわっとしてて美味いぞ。
フィガロ: 紅茶も飲んでみて。渋みのある茶葉だけど、甘いお菓子にはよく合うよ。
晶: 本当だ!紅茶もチュロスも、とっても美味しいです!
カイン: お菓子も紅茶も、おかわりはたくさんあるからな。どんどん食べてくれ。
思い思いに会話を楽しむなか、リケはぬいぐるみたちにも話しかけていた。
リケ: ムル、クッキーですよ。好きなだけ食べてくださいね。
リケ: ファウスト。紅茶のおかわりはいりますか?
リケ: カイン、いつもみたいにたくさん食べてくださいね。
リケがそっと、ぬいぐるみのカインの頭を撫でる。
そんなリケの髪を撫でるように、そよ風が吹いた。
さわさわと、優しい風。
リケがぬいぐるみを撫でるのと同じ、あたたかい温度。
まるでこの世界も、リケの頭を撫でているみたいだ。
晶: (なんだか、胸がいっぱいになっちゃうな)
リケは教団で育った。きっと、ぬいぐるみが近くにあるような生活ではなかったはずだ。
だけど、いま目の前にいる彼は、目をきらきらと輝かせて新しい友だちと遊んでいる。
その姿を隣で見られることが、私はすごく嬉しい。そして……。
カイン・フィガロ・ホワイト: ……。
きっと、ここにいるみんなも同じ気持ちだ。そう思うだけで、もっと胸がいっぱいになる。
リケ: どうですか? カイン。美味しいですか?
リケは、ぬいぐるみのカインの口元にクッキーを差し出しながら、首を傾げた。
すると――。
???: ああ、美味いよ!ありがとな、リケ!
晶: (ん? 今の声は……)
ぬいぐるみのカインがしゃべったかのようなセリフ。でも、明らかに高い声。
それは人形遊びをするときに、大人がつい作ってしまうような声音だ。
突然の声に一瞬、ぱちぱちと目を瞬かせたリケは、すぐにふふっと笑った。
リケ: もう、カイン!
リケ: あなたのぬいぐるみなんですから、返事をするなら、いつものあなたの声にしてください。
カイン: はは、そりゃそうか。
カイン: でもなんとなく、ちっちゃい俺はこういう声かなって思ったんだよ。リケもそう思わないか?
リケ: そう言われると……?
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