Chapter 4
どうか天国に花が流れて
村の人: えっ!ルチルが賢者の魔法使いなのは知ってたけど、あんたらも?
村の人: すごーい!じゃあ、有名人がいっぱいだ!
村の人: 孫に自慢しよう!あんたら、握手しとくれ!
カイン: もちろん!ほら、オズも。
オズ: 私も?
晶: (四方八方から握手を求められる……。なんか嬉しい……)
村の人: じゃあ、賢者の魔法使いさんたち。旅行中に悪いけど、よろしく頼むよ。
口々にお礼を言い、握手して、村人たちが去っていく。
遠ざかる賑やかなざわめきの中から、小さく、声が聞こえた。
村の女性: ねえ……。前に、中央のどこかで、死者が蘇ったって話があったでしょう?
村の男性: ああ、聞いたような気がするな。<大いなる厄災>の力で、って。
村の女性: そうよね!じゃあ、やっぱり、月の力で叔母さまが蘇ったんじゃない?
村の女性: 魔法のことはよく知らないけど、何か、奇跡が起きて……。
村の男性: そうかなあ。……そうだといいねえ。
晶: (中央の蘇った死者って、トビカゲリの件かな?かなり話が変わってるみたいだけど……)
昨夜聞いたフウィルリンの声が胸に響く。
時は戻らない。死者は蘇らない。
この世界で、何度も聞いたことだ。
晶: (でも、絶滅した魔物や、太古の生物が蘇ったのは、何度も見た)
晶: (<大いなる厄災>の影響で……)
明るい空に月はない。
でも、どこかに隠れてしまった、あの厄災の気まぐれで……。
例えば、魂だけなら、蘇ることだってありえるかもしれない。
厄災の奇妙な異変が、優しい奇跡を起こしたところだって、何度も見たのだから。
ルチル: ……。
ルチルも、囁き合う村人たちの背を見送り、少し、夢見るように微笑んだ。
年長の魔法使いたちが、言葉なく視線を交わす。
シャイロック: ……さて。では、異変の調査は夜からとして、しばらく、バカンスを楽しみましょうか。
晶: え?
ルチル: でも、お引き受けしたのに……。
シャイロック: そうは言っても、今はほとんど何の気配もしません。調査をしても、あまり成果はないでしょう。
シャイロック: オズ、スノウ様。お二人は、今すぐ対処するべき、危険な異変だと思われますか?
オズ: いや。弱く、悪意もない。大した異変ではない。
スノウ: うむうむ。我やオズの力に制限はつくが、調査も対処も、日没後の方がよかろう。
シャイロック: 決まりですね。では、昼間は予定通り、この村でのひと時を楽しみましょう。
シャイロック: 厄災の力が強まる日没後、また、あの浜辺で。
ファウスト: …………。
ファウスト: ……もう聞こえない……。
ファウスト: (そこは、暖かいか?)
ファウスト: (争いのない場所で、穏やかに過ごせているか?)
ファウスト: (ビアンカ、イーサン。皆……)
ファウスト: …………。
ファウスト: ……アレク……。
スノウ: お姉ちゃま!ミントのアイス、くださいな~!
アイス屋の店主: はいよ!坊や、お使いかい? えらいねえ。
スノウ: お使いじゃないよー。
アイス屋の店主: ……あら……。お父ちゃんやお母ちゃんは?
スノウ: いなーい。
アイス屋の店主: ……。
スノウ: あ、ジュース屋のおじちゃん!次に買いに行くから用意しといて!一番人気のやつ!
ジュース屋の店主: カカの実のジュースだね。お代はいいよ、ちびっ子にはサービスしてるんだ。
スノウ: わーい!
アイス屋の店主: ……ねえ、坊や。お花は買った?
アイス屋の店主: 買い方がわかんないなら、おばちゃん、お店についてこうか。
スノウ: ううん、大丈夫!あげる相手いないもん。
アイス屋の店主: そう……?
スノウ: うん!バイバーイ!
スノウ: ……お!ミントアイスとカカの実の組み合わせ、結構いけるのう。
スノウ: うまうま……ん?
ブラッドリー: ……。
スノウ: あー、ブラッドリーちゃんみっけ!おーい!
ブラッドリー: ……、……。
スノウ: おや。憎まれ口のひとつも叩かぬとはのう。ふむ……。
スノウ: あやつ、先ほどは、何も聞こえなかったそぶりをしておったが。やはり……。
ブラッドリー: おやじ、麦酒。瓶で。
酒屋の店主: あいよ。グラスはいるかい?
ブラッドリー: いらねえ。ちまちま飲んでられるか。
酒屋の店主: おお、景気がいいねえ!たっぷり買い込んだその肉串が、つまみってわけだ。
ブラッドリー: まあな。そいつがこの村の楽しみ方ってやつだろ。
酒屋の店主: ははは、その通り!
酒屋の店主: はい、酔い覚ましの水はおまけだよ。うちの村を楽しんで!
ブラッドリー: ああ……。
ブラッドリー: もぐ……。……ごく……。
ブラッドリー: ……。はあ……。
ブラッドリー: (……湯気の立つ肉と、荒っぽい麦酒を、昼間からかっくらう。厄介な監視も、任務も無しで)
ブラッドリー: (これぞ、最高のバカンスってやつだ。最高の……)
花屋の店主: どうぞ、寄っといで。うちの花は、海に流しても萎れにくいって評判ですよ。
ワンピースの子供: ママー。お花屋さん、きれいだねえ。
ワンピースの母親: きれいねえ。ほら、おじいちゃまにあげるお花、あなたが選んであげて。
ブラッドリー: …………。
花屋の店主: やあ。お兄さんも、お花をお探しかい?
ブラッドリー: ……いや。見てただけだ。
ブラッドリー: (花なんかいらない)
ブラッドリー: (あの島には誰もいない。声なんざ聞こえない)
ブラッドリー: ……あいつらは、今も……。
ブラッドリー: 北の凍てついた雪の下だ。
波打ち際にしゃがみ込んで、ルチルがそっと花輪を流す。
私は少し後ろに立って、その様子を見守っていた。
たくさんの白い花に、薄桃の花を一輪足した、2つの花輪。
晶: お父さんと同じように、あの詩に合わせて、花輪を編んだんですね。
晶: 花輪が二つあるのは、ご両親がお揃いでつけられるように?
ルチル: はい。母様は父様がくれた分があるので、ひとつ余っちゃいますけど。
ルチル: ……ん? なんですか、母様。別にいい?
傍に寄り添う誰かと言葉を交わすみたいに、ルチルが微笑む。
私は息を呑んだ。
晶: ルチル……。ご両親と喋れるんですか?
ルチル: え……? はい。賢者様はフウィルリンさんとお話しできませんでした?
晶: できなかったです。一回、名前を呼ばれただけで……。
ルチル: えっ……。……、じゃあ……。
ルチル: ……でも……、でも、なにかあったでしょう?
ルチル: ほら、フウィルリンさんが賢者様と話したがっている感じとか。声にそういう雰囲気があったり……。
晶: いや……。本当に、『名前を呼んだ』って感じだったような……。
ルチル: ――――。
なぜか、必死に言い募る様子だったルチルが、ぐっと身を固くして俯く。
金色の髪が重たげに揺れたせいか、項垂れているようにも見えた。
私は少し慌てる。
彼は優しいから、私を差し置いて大切な人たちと会話できているのが、後ろめたいのかもしれない。
晶: ええと、ほら!私はただの人間で、ルチルは魔法使いですから。
晶: 特にルチルは、ご両親と縁が深いから、亡くなった魂とも喋れるのかも。
晶: それに私は、ルチルと違って……。
その先を、私は言い淀んだ。
ルチルのためじゃなくて、私のために。
フウィルリン: 一晩だけの友達になってしまったな。
晶: …………。
ルチル: …………。
ルチル: ……そういうのは、関係ないと思いますよ、きっと。
晶: え……?
ルチルにしては、低くて、弱い声だった。
けれど、私が声をかける前に、ルチルはパッと笑顔に戻った。
いつも通りに元気に立ち上がり、ぐーっと伸びをする。
ルチル: あー!ずっと花輪を編んでたから、肩が凝っちゃった。
ルチル: ちょっと、あの木陰の辺りで休憩してきます。賢者様はどうなさいますか?
晶: あ……。……えっと……。