Chapter 2

どうか天国に花が流れて


ルチル: ……あの、それなら。オズ様がお許しになった上で、かつ、予定が合えば、ですけど……。

ルチル: 皆さんも一緒に、天国の浜辺に行きませんか?

魔法使いたち・晶: えっ?

: いいんですか?でも……。

カイン: ルチルの弔いの邪魔にならないか?

ルチル: いえいえ!一番の目的はお弔いですけど、二番目の目的は観光なんです。

ルチル: フィガロ先生とレノさんの話だと、雲の街くらい大きくて栄えた村なんですって!でも、うちと違って、お店がずらーって……!

わくわくと弾むように話すルチルに、私たちは顔を見合わせた。

誰からともなく笑い合い、大きく頷く。

: ルチルがいいなら、ぜひ!

アーサー: 楽しみだ!オズ様も、滞在なさらないかお誘いしてみよう。

カイン: ああ!あいつなら、嫌とは言わないだろう。

スノウ: 我も我も!

ファウスト: まあ……滅多にない機会だしな。弔いの風習に興味はある。

シャイロック: では、私たちもルチルの言葉に甘えましょうか。

ルチル: やった!それじゃあ、南のみんなにも声をかけておきますね。

笑顔を弾けさせるルチルに、私も胸を弾ませた。

: (ここにいるみんなと、南のみんなとで旅行か……)

: (賑やかになりそうで、楽しみだな)

それから数日後。

旅支度を整えた私たちは、談話室に集まっていた。

アーサー: すまないな。公務の都合で、出発が遅い時間になって。

ルチル: いえいえ!アーサー様、お仕事お疲れ様でした。

ルチル: それから、オズ様。今回のこと、本当にありがとうございます。

オズ: 造作もない。

スノウ: オズちゃんの空間移動、ほんと便利~!

スノウ: オズちゃん、夜になったらホワイトちゃんがビーチに来るから、朝イチで送ってあげてね。うちの悪戯っ子ちゃんたちが悪さする前にね!

オズ: …………。

アーサー: オズ様、私からもどうぞお願いします。厄災の傷はままならないことですし。

カイン: 俺が言うのもなんだが、財布取りに帰るよりは有益だろ。

シャイロック: おや、何度か経験が?

カイン: 3回くらい?

オズ: 4回だ。

ファウスト: 多いな……。今日は忘れていないな?ハンカチと魔道具は?

出発前の談話室は、これからの旅路へのわくわくで満ちていた。

けれど、そこに、ルチル以外の南の魔法使いたちの姿はない。

: (ミチルは『自分も二十歳になった時に初めて行きたいから、今は楽しみを取っておく』って言ってた)

: (でも、他の二人は……)

: えっ……。フィガロとレノックスも来ないんですか?

レノックス: はい。フィガロ先生と話し合って、やめておくことにしました。

フィガロ: 俺たちがいない方が、あの子にとっていいんじゃないかって結論になったんだ。

: そんなこと……。

レノックス: いえ、なんだろうな。うまく言えないんですが……。

レノックス: 賢者様たちの方がいい、というか。

: 私たちの方が……?

フィガロ: ……賢者様。あの子は強い子だから、大丈夫だと思うけど……。

フィガロ: どうか、ルチルをよろしくね。

: (私たちの方がいいって、どういうことだろう?)

: (それに、『ルチルをよろしく』って……)

レノックスは、ただ、ルチルもたまには友達と羽を伸ばしたほうがいいと思ったのかもしれない。

フィガロの言葉は、子供を託す時の決まり文句で、深い意味はないのかもしれない。

けれども、そうやって流すには、少し、切実で真剣だった気もした。

ルチルたちを見守る二人の、大樹のような眼差しを、私が測りきれていないだけかもしれないけど。

アーサー: フィガロ様たちが来られなくて、残念だな。お土産の希望は聞いてきたか?

ルチル: うーん、先生とレノさんは無欲な方なので。何度聞いても、私が元気に帰ってきたら、それが一番のお土産だよ、としか。

ルチル: あ、でも、ミチルはアイスがいいそうです!レノさんに果物のアイスの話を聞いてから、もう、うっとりしちゃって。

カイン: はは、可愛いな。リケの分と一緒に、山ほど買ってやろう。

: (今のところ、ルチルに変わった様子はなさそうだけど……)

ブラッドリー: ……っくしょん!

ルチル・晶: わっ!?

アーサー・カイン: ブラッドリー!?

私たちの輪の真ん中に、突然、ブラッドリーが姿を現した。

なぜか握りしめていた鳥の羽根を、舌打ちしながら床に放り捨てる。

ブラッドリー: くそ、思ったより移動しなかった!……あ?

ブラッドリー: てめえら、南の兄ちゃんと旅行じゃなかったのか?ここで何してんだ。

アーサー: いや、その通りなのだが、私の都合で出発が……。

ムル・クロエ・ラスティカ: ブラッドリ~♪ ブラッドリ~♪

: ん?

ムル: ブラッドリ~♪くしゃみで消えちゃった~♪

ラスティカ: でも近くにいる気がする~♪

オズ: なんだ。あの歌は。

カイン: ブラッドリー、西の魔法使いと何かあったのか?

ブラッドリー: 知るかよ!部屋から出た瞬間、西のやつらが急に歌って踊りながら囲んできたんだ。

ファウスト: ……怖……。

ブラッドリー: だろ!?意味不明すぎて、咄嗟にくしゃみで逃げたんだ。で、ぶっ飛んだ先がここだったのさ。

: な、なるほど?シャイロック、西の皆さんから何か聞いてますか?

シャイロック: さあ。ですが、昨晩、ムルとラスティカがこう話していました。

シャイロック: 『シャイロックがいない間、超楽しいことをしようよ』と。

カイン: 西の魔法使いの『超楽しいこと』って、際どいか、イカれてるかの二択じゃないか?

シャイロック: 光栄です。

オズ: 褒め言葉ではない。

ムル: 談話室っぽい♪

ラスティカ: 行ってみよう♪

ムル・クロエ・ラスティカ: ららら~♪

ルチル: こっちに来るみたいです!

スノウ: うーむ、仕方あるまい。ブラッドリーもバカンスに来ることを許してやろう。

スノウ: オズ。日が沈む前に我らを運ぶのじゃ。

オズ: …………。

オズ: 《ヴォクスノク》

: わあ……!

ルチル: すごい……!きれーい!

のんびりした美しいビーチに立って、私たちは歓声を上げた。

南の国らしい、赤土が混じった長い砂浜。

夕焼け色に輝く海面で、波の音に合わせて揺れる花々。

そろそろ陽が沈むけれど、浜辺にはまだちらほらと人がいた。

屋台の食べ物片手に、ひょいと花を放る人。跪いて祈る人。寄り添ってしんみりと海を眺める人……。

沐浴する人や、泳ぐ人、はたまた、普通に遊ぶ子供たちもいる。

おおらかな南の国らしく、窮屈なルールは無しで、皆、好きに過ごしているようだった。

その向こう、水平線の果てに、淡い色にけぶった島影がある。

『天国』の島。

カイン: すごいな……。本当に、沖合に島が見える。

アーサー: 美しいな。遠目にもわかるほど、島いっぱいに花が咲きこぼれて……。

オズ: ……魔法の気配がしない。幻術の一種だと思っていたが。

シャイロック: ええ。だからと言って、自然現象にしては、あまりにもはっきり見える。

シャイロック: この不思議さも、あの島の『天国』たる所以なのでしょうね。

遠くで鐘がひとつ鳴った。

空に抜けるような、高く澄んだ音。

明るい残響の中を、弔いの花が流れていく。

人も魔法使いも辿りつけない島。

死者を想う気持ちだけは、あの島に届くのだろうか。

ブラッドリー: ふわーあ……。

が、海を眺めている私たちの横で、ブラッドリーが大きな伸びをした。興味なさげに、首を掻く。

ブラッドリー: 俺としちゃ、行けもしねえ島より、肉が焼けるところでも見物したいね。屋台かなんか、ねえのかよ。

ファウスト: おい、人が弔いに来たのに……。

スノウ: ごめんねルチルちゃん!この子、道端のお花とか素通りするタイプなの。

ルチル: あはは、気にしないでください。私もちょっと、お腹空いたなーって思ってました。

ルチル: 屋台は村の大通りに集まってるんですって。レノさんとフィガロ先生に、美味しいご飯屋さんも聞いてあります!

ブラッドリー: そうこなくちゃ。

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